第4回 ブログ版 農業講座「紫陽花と宮沢賢治、あとバッタ」

今年の梅雨は、晴れの日が多いように思われましたが、ようやく梅雨らしいシトシト・ジメジメした天候になってきましたね。

夏至も過ぎ、梅雨が明ければ夏本番です。

暑さに日焼けにウイルスに…、人間だけでなく、植物だって生き物ですから気をつけることがいっぱいですよね。

そんな、この季節ならではの農業のおはなしを、まんのうの達人・豊嶋和人さんによる、ブログ版「農業講座」で学びましょう!

 

【紫陽花と宮沢賢治、あとバッタ】

アジサイの鮮やかな梅雨になりました。アジサイの花の色が赤くなったり青くなったりするのは、主に土壌pHが影響しているというのはアジサイを庭先に植えている方にはおなじみでしょうか。もうちょっとだけ理屈を付け加えると、土が酸性だと土壌中のアルミニウムが水に溶け出します。溶け出すということは根に吸われる状態になります。根から吸われたアルミニウムはアジサイの色素と結合し、青くなります。アルミニウムが溶けない弱酸性からアルカリ性では赤くなります。青いアジサイを来年は赤く咲かせようと思ったら、苦土石灰などで酸性を中和してやるとよさそうです。

(写真① アジサイの花、本人撮影)

 

アルミニウムには実は植物に対して毒性があります。ただ、その毒への耐性が植物によって違っていて、アジサイはアルミニウムに強いほうなので青くなるだけで済んでいるわけです。一方、アルミニウムに弱いホウレンソウをアルミニウムが溶け出す酸性条件で育てると、根が伸びずに下葉が赤くなって成長せず、農家の顔が青くなります。

以前にも少し紹介しました(注1)関東や九州に多いかつて痩せ地だった黒ボク土は実はアルミニウムを多く含む土なのです。どおりで作物ができなかったわけですね。その土は20世紀になって石灰やリン酸肥料の投入によって「ようでける」土になりました。石灰は酸性土壌を中和し、アルミニウムが溶け出さないようにします。リン酸はアルミニウムと結合して根から吸われない形にします。これは大事な肥料分のリン酸がアルミニウムと結合して吸われなくなるとも言えます。リン酸をたくさん施してはじめてリン酸が根に吸われるようになる土なんですね。

(注1)第1回ブログ版「農業講座」を参照

ちなみに、図書館にもたくさん蔵書がある、詩人で童話作家の宮沢賢治は、土壌肥料の専門家でもありました。農学校や羅須地人協会で土や肥料の教育に携わったことで知られています。晩年の賢治が熱心に取り組んだのが炭酸石灰肥料の売り込みでした。岩手に多く見られる黒ボク土はとにかく酸性土壌を改良しないとはじまらないわけですから。

黒ボク土ほどではなくても、わたしたちが耕す土も酸性改良したほうが作物がよくできる場合が多そうです。先に述べましたホウレンソウや、キャベツ、ブロッコリー、小松菜などのアブラナ科野菜はその代表です。では石灰をまきましょう。お店でよく見かけるのは消石灰か苦土石灰か有機石灰ですね。

消石灰は比較的水に溶け、酸性改良効果が高いですが、そのぶん土壌中で有機物やアンモニア肥料と反応しやすく、種まきや植付けの直前には使えません。苦土石灰や有機石灰は主成分が水に溶けにくい賢治も売込んだ炭酸石灰ですから反応も穏やかで、植付け直前でも施用できます。苦土石灰と有機石灰の違いはと言いますと、

1.苦土石灰は元々の原料が炭酸石灰と炭酸マグネシウムが主成分のドロマイトという鉱物で、有機石灰は牡蠣の殻です。それらを粉砕して肥料にしています。

2.苦土石灰は肥料分のマグネシウムを15%ほど含みますが、有機石灰にはその他のミネラルとともに微量含まれるのみです。

以前、20年以上毎年有機石灰を使ってブロッコリーを栽培していた畑の土壌分析をしましたところ、マグネシウムの数値が極端に低くて驚きました。ブロッコリーでマグネシウム欠乏症が大きな問題になることはほぼないのですが、作物によっては真ん中から下のほうの葉が葉脈に沿って黄色くなるなどの欠乏症状に注意が必要です。

ホームセンターの宣伝文句や肥料の本には有機石灰の特徴として「土をかたくしない」と書かれていることがあります。では他の石灰は土をかたくするかといえば、作付け前に堆肥などを十分に与えておけば気にすることはないと思います。有機石灰は元々が牡蠣殻なので小さな穴がたくさん空いていて、お店で他の石灰と肥料袋の大きさを比べてみればよくわかりますが、比重が軽いようです。そのぶんだけ土を軽くする作用はありそうですが、それに期待して入れすぎてしまうと、マグネシウム欠乏や過剰なアルカリ化を招くおそれがあります。化学肥料だけではなく、堆肥や土壌改良資材についても過ぎたるは及ばざるが如しということが言えます。

(写真② カヤで編んだバッタ、本人撮影)

ところで上の写真②は近所の石井さんからいただいた、カヤで編んだバッタです。生き生きとしていますね。その二週間後の様子が下の写真③です。乾燥しただけで形がそのままなのがすごい。違った味わいがあります。

(写真③ 乾燥したカヤのバッタ、本人撮影)

 

イネ科植物のかたくて腐らない茎葉は大昔から茅葺屋根やしめ縄などいろいろな生活の道具にも使われてきました。

ところが最近はカヤやススキの野原を見ることがあまりありません。代わりによく見るのは耕作放棄地のセイタカアワダチソウですね。でもこれからはひょっとすると昔ながらの野原が戻ってくるかもしれません。10年ほど前に借りた田んぼのお向かいに、田んぼを転用した資材置き場がありまして、セイタカアワダチソウがいっぱい生えてたんですよ。ところがここ1,2年でススキやチガヤに取って代わられるようになりました。田んぼの肥料、特にカルシウムやカリウムが抜けて酸性に傾くと、土壌中のアルミニウムが溶け出してセイタカアワダチソウは減り、元々日本の酸性土壌に生えていたアルミニウム耐性の強いススキやカヤが戻ってきたわけです。

(写真④ ススキとカヤの野原、本人撮影)

 

バッタ細工の名人石井さんに、「お前もそろそろこういうの作って教えられるようにならないかんのぞ」って言われてしまったのですが、手先が不器用なので自信がありません。どうせなら図書館でみんなで習いたいと思うのですが、いかがでしょうか。早くコロナの心配がいらなくなって催し物が再開できるといいですね。

 

では最後に図書館にある関連本を紹介します。

『宮沢賢治の元素図鑑(作品を彩る元素と鉱物)』桜井弘 著 化学同人 (4311 サ)

土壌肥料だけではなく鉱物マニアでもあった賢治の作品にはいろんな鉱物や元素が登場します。それらを作品にそって解説してくれる二度美味しい本です。

『いちばんよくわかる超図解土と肥料入門』 加藤哲郎 監修  家の光協会  (6135 イ)

本文中で三種類の石灰について説明しましたが、いろんな肥料や土づくり資材について大きな写真つきで性質や使い方を解説してくれます。最初の一冊に最適です。

 

カヤで編んだバッタの細工、素晴らしいですね。

豊嶋さんのおっしゃるとおり、早く催し物が再開できるようになって欲しいものです。

その時は、農業講座も ”生” で受講できますね♡

豊嶋さん、今回もありがとうございました。

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